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伝説の教祖 - 昇合拾数(8)「もてあます才能」

神童たる苦悩

伝説の教祖 - 昇合 拾数(のぼらい ひろかず)

東北地方の田舎町、333年の歴史を持つ神社に、次男坊として生まれる。物覚えの良さとその特異な言動から、神童と呼ばれ、将来を期待される。

 

しかし、若くして道を逸れた昇合は、波乱万丈の人生を歩む。神主、占い師、マジシャン、政治家、哲学者、など様々な肩書を持ち、浮浪者時代を経て、教祖として数々の記録を残すこととなる。

 

三度の「三種の神技」達成で日本中を驚かせ、世界に進出して「奇跡」を複数回達成。世界初の「神との調停」「宗教間トレード」「他宗教の神を信仰」など、型破りな教祖像を世に知らしめた。

 

やがて彼は、神と呼ばれるようになり、世界で最も人類を救済しつつ、世界で最も嫌われる存在となる。まさに彼は「異端」である。

「そうだ、グレてやろう」

 

 小学5年生の時点で、神主の仕事をマスターしてしまった昇合。家族や近所の人々はもちろん、町全体でその噂は広まっていた。神社の家に生まれた「まさに神童」ともてはやされ、すでに彼を拝みに来る人までいた。

 

 どのような家庭でも、親と同じ程度の子供が生まれるというのはありがたいこと。鳶が鷹を生めば扱いに困ってしまうし、みにくいアヒルの子では困る。蛙の子は蛙なのは、当たり前のようで素晴らしいことなのだ。

 

 ただ、そう簡単に行かないのがこの世の中。少年時代の昇合は、確かに天才的な神主のセンスを持っていた。しかし、それ以外はまったくもって何をやってもダメだった。通信簿はアヒルの行列、運動をやればアヒルよりのろく、歌声はアヒルと同等、しかしアヒルと違って泳ぎは苦手と来た。

 

 加えて、何度も言うが彼は次男。神社の跡継ぎの長兄は絵に描いたような秀才であり、この時すでに高校3年生。進学先は早い段階で決めていたが、進路指導の教員からは東大受験を勧められていたほどだ。通信簿はオール5。交友関係も幅広く、生徒会長を務める美人のお嬢様とすでに交際3年目であるが、セックスは結婚してからということで、純潔を守っていた。

 

 時は進み、思春期を迎えた昇合は、ご多分に漏れず、自身の存在について悩むようになった。「神主のことなら誰よりも知っているが、それ以外は何をやってもダメ。しかし、思春期になって神社で神主の真似事をするのはもう恥ずかしい。ああ、もう死にたい」という塩梅だ。青春は塩辛いのだ。

 

 そういうわけで、昇合は中学生になって徐々にグレ始めた。深いコンプレックスを持っている人に対して、ヤンキーというのは優しいのだ。力で物事を支配しようとし、時には弱い者をいじめるが、本当の弱みを見せた人間には非常に優しい。何より、「神社の息子」という、中学生がいかにも食いつきそうな称号を持った昇合は、一瞬で受け入れられた。

 

 このようにして、昇合は神主の棒をタバコに持ち替え、才能をもてあます日々を送ることとなるのだった。ちなみに、たばこの銘柄はキャメル。箱に描かれた砂漠とラクダとピラミッド……親交の熱心な中東の風景、そして古代信仰の象徴ピラミッドに、やはり神道の血が反応してしまったのだろうか? いや、彼は動物が好きだっただけだ。

 

つづく